先天性股関節脱臼

わが国では比較的多い先天性疾患で、女性は男性の5倍と多く、片側脱臼と両側脱臼とがあります。股関節の天井(臼蓋)の発育不全によるものから、関節包や靱帯が弛緩伸長して、大腿骨頭が関節包の内部でわずかに脱臼(亜脱臼)しているものや、完全に脱臼しているものまであります。

原因・予防

家族的発生があるため、根底には遺伝的素因があると考えられていま す。出産直前に母親の関節を弛緩させる女性ホルモンの分泌が亢進したために、胎盤を通じて胎児の関節や靱帯が弛緩し、脱臼しやすくなったところに出産前後の胎児の股関節の肢位という環境因子(骨盤分娩児、おむつのあて方)が加わって発症するとも考えられています。そこで、脱臼の予防には生後すぐに、股関節を自由に開けないようなおむつのあて方をせず、股を開いた位置でおむつをあてるように注意することが大切です。

症状・診断

生後まもないころに、股の開きが悪いことと太もものしわが左右対称でないことが、先天性股関節脱臼を疑わせる大事な症状です。一般には乳児健診(3~ 6か月)で、これらの症状がみつけられ、エックス線写真で診断が確定されることが多いものです。

先天性股関節脱臼のごく軽いものは、幼児期には、無症状のため気がつかずに放置され、思春期になってから、痛み、跛行(足をひきずるように不自然に歩くこと)、歩行時の疲れやすさなどを訴え、エックス線写真で発見されることもあります。この疾患の早期発見のためにも、乳児検診はかならず受けるべきです。

治療

3か月以内の新生児で脱臼が発見された場合は、整復後、股関節を開いた位置に保持するための装具が使用されます。生後3か月以後は下肢の運動も活発になるので、リーメンビューゲルという装具を装着させて、 ある範囲の股関節の運動をさせながら、自然整復へと導きます。この装具を3~6か月間装着することで、ほとんどが治癒します。このように先天性股関節脱臼は、早期発見、早期治療が鉄則なのです。

自然整復されなかったものには、徒手整復術が行なわれ、ギプス固定が必要になります。しかし、どうしても整復できないものや、年齢の高いものは治療がむずかしく、 手術療法が行なわれることもあります。

医師のかかり方

脱臼が自然整復へと導かれたものでも、その後の経過中に骨頭が臼の中心に正しく保持されなくなって、歩行とともに骨頭がしだいに外側にずれてくるものや、歩行開始以後に治療を始めたものでは、たとえ整復に成功しても、その後の骨発育が順調に進まないこともあります。その結果、臼と骨頭との間の関節面の形状の不適合をきたし、10年、20年と経過すると、二次的に変形性股関節症を発症し、 いつも痛みや跛行に悩まなければならなくなります。したがって、先天性股関節脱臼 はひじょうに長く注意深い経過観察が必要です。